<抜け毛>「不潔」への不安が髪を失う原因に
皮脂を意識したスカルプ(頭皮)ケア商品がどんどん増え、頭皮から皮脂を根こそぎ取るような、テレビCMのビジュアルが印象に残っている人も多いでしょう。
その“常識”は正しいのでしょうか?
脱毛症治療が専門の齊藤典充・横浜労災病院皮膚科部長に聞いてみました。
◇「不潔なのは絶対嫌なので、シャンプーは1日3回」
1日に何度も鏡を見て、髪の毛に触り、抜け毛がないか気にする。
最近、髪の毛を気にする若い男性が増えています。
抜け毛や頭皮のかゆみを訴えて、外来を受診された人に話を聞いてみると「睡眠時間は1日3時間、食事は1食。」
「でもシャンプーは毎日しています」「シャンプーは1日に3回。絶対不潔にしたくないので」などという話がポロポロと出てきます。
そんな方は、なにか特別な指導や治療法があると思って受診されます。
しかし、頭皮や髪の毛のトラブルには、睡眠や食生活など基本的な生活習慣の乱れが原因になっている例が少なくありません。
加えて、髪の洗いすぎなどが悪影響となっていることも多々あります。
◇洗いすぎ、こすりすぎの洗髪は頭皮を傷つける
シャンプーは、髪の毛の汚れを取るために使用します。
もちろん同時に頭皮も洗ってかまいません。
しかし、必要以上に強くゴシゴシと頭皮をこするのは、「やりすぎ」です。
爪を立てて、あるいはブラシのようなものを使って髪を洗う人もいますが、おすすめできません。
頭皮は髪の毛を支える土台です。
その土台をこすって傷つけてしまうと髪の毛もダメージを受けます。
洗髪後、すぐに頭皮がヒリヒリするときは、洗いすぎの可能性があり、要注意です。
それでも「髪の毛の根元に脂がたまっている」状態に抜け毛の不安を感じるという人は、頭の皮脂にも切な役割があることを理解してください。
頭皮、髪の毛は、皮脂に表面がコーティングされることで乾燥から守られています。
シャンプーでその脂を落としすぎると頭皮は乾燥して弱くなり、髪の毛も光沢が失われます。
顔や手の乾燥肌とまったく同じ状態です。
そうして弱った頭皮を、さらに強くこすると、当然ダメージは追加されます。
フケに悩んでいた人が、調べてみたら髪の洗いすぎによる乾燥によって頭皮が荒れていたのが原因、という例もよく見られます。
CMのビジュアルに象徴されるように、毛穴に皮脂が残っていたら不潔と思う人は多いのでしょう。
ですが、皮脂は不要なものではなく、ある程度ないと支障をきたす必要なものです。
私の2世代くらい上の医師の中には、「髪の毛は週1回洗えば十分」という先生もいました。
時代が変わり、職場、学校でも臭いが気になる場面が多いですから、この意見をそのまま現代に当てはめるわけにはいかないでしょう。
頭皮の臭いは皮脂が酸化することや、頭皮の常在菌が排出する脂肪酸によって生じるとされています。
頭皮に限らず皮膚を清潔に保つことは大事ですが、洗いすぎは頭皮と毛髪の健康に逆効果であるのは間違いありません。
◇睡眠や食事、日常生活の乱れを軽視していませんか?
そして生活習慣の乱れは、髪の毛の状態にそのまま影響します。
睡眠時間が短く、イライラすると肌荒れを起こしやすくなるように、皮膚の一部である頭皮や頭皮を土台にする髪の毛も同じように傷みます。
食べ物との関連も密接です。
ファストフードに偏った食生活をしていると、髪の毛はざらついた手触りになっていくのが分かります。
髪の毛の成分は、爪や皮膚と同じケラチンというたんぱく質です。
たんぱく質はアミノ酸から合成されますが、ケラチンを作るのに必要な酵素には亜鉛が含まれています。
さらにビタミンB群のビタミンB2、B6、ナイアシンなどはアミノ酸自体の合成に関わっています。
つまり髪の毛にも体の他の部分と同様、たんぱく質、炭水化物、脂質、各種のミネラルやビタミンなどすべての栄養素が必要なのです。
シャンプーやヘアケアにはたっぷり時間をかけるが、日々の食事は食べたり食べなかったり、バランスを欠いたメニューを続けているのでは、大事なことが抜け落ちています。
食事は、髪の毛の原料を取り入れているのだという視点も大切にしてください。